COLUMN
コラム
2020.07.12
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少し古い本ですが、「頭の良い子が育つ家」(日経BP社2006年)という本があります。内容的には、今でも全く古くなっておらず、これからの住まいづくりにとても参考になる本だと思います。お子さんがいる方で、これから住まいづくりを進めようと思っているか方には、是非一読することをお薦めします。
この本を読んでいて、ダイニングコンサルタントの黒羽雄二氏による「家族の絆を創るダイニング」のプロデュースの考え方が、とても共通する要素が多いように思いました。そこで、「頭の良い子が育つ家」で紹介されている内容とダイニングコンサルタントによるダイニングスペースの大切さ、そして高気密・高断熱住宅という3つの観点を総合しつつ、「中古住宅のフルリノベで、頭の良い子が育つ家を実現する」ことについてまとめてみたいと思います。
同書では、中学受験で有名中学校に合格した子どもたちが、どのような自宅や子供部屋で勉強していたのかを徹底的にリサーチしています。
そこで明らかにされたのは、有名中学の受験に成功した多くのお子さんたちは、物音が一切しない、2階の静かな子供部屋にひとりでこもり、立派な勉強机の前に陣取り、眠気と闘いながら勉強していたわけではないということです。
多くのケースに共通しているのは、家族の仲が良く、会話が多い明るい家庭で育ち、そして、ほとんどの子どもたちが子供部屋の机で勉強していない、のだそうです。
一般的な有名中学受験のイメージとは、だいぶかけ離れていますよね。
では、どこで主に勉強しているのかというと、多くのお子さんたちは、お母さんがいるリビングやダイニングで勉強しているのだそうです。つまり、立派な子供部屋は不要であり、子どもたちの勉強のでき具合と子供部屋の立派さには、あまり関係はないようです。
お母さんと「なんとなく」つながっている安心感。この「なんとなく」の安心感を抱いていることで、子どもはかえって集中して勉強にとりかかれるのだそうです。
また、同書によると、勉強ができる子が子ども部屋で勉強していないのは、近年の教育や受験の出題傾向が暗記重視から記述問題重視になり、子どもたちの考えや答えを導き出した理由が求められる傾向が強まったことにもあるようです。こうした問題に答えられるようになるためには、考える力、そして人に説明する能力が必要になります。その能力のベースになるのが、人とのコミュニケーションなのです。考える力やコミュニケーション能力を養うためには、子ども部屋のような孤立した空間にこもっていてはだめなのだそうです。家族といかに濃密なコミュニケーションをとっているかが大切なのです。
名中学の受験に成功した家庭のケーススタディで注目すべきは、家族と密接にコミュニケーションを取り、よくしゃべり、よく食べ、よく遊び、そしてよく勉強していたということだそうです。では、そのように過ごしてきたお子さんたちは、どのような住まいで、どのように育ってきたのでしょうか?
多くのお子さんたちは、たとえせっかく素敵な子供部屋が与えられても、そこを飛び出して、おうちのいろいろなところで勉強していたようです。
子どもたちは、「一人ぼっちの部屋ってあまり好きじゃない。」「なんだか落ち着かなくて、ひとりだとかえって勉強にも読書にも集中できない。」のだそうです。
そのため、お母さんの気配が感じられる場所を選んで、移動して勉強しているようです。近くにお母さんがいて、ときどき話をしながら勉強していると、難しい問題も解けちゃうし、人と話をすると考えがまとまってくるそうです。
そこで、注目すべき空間が、リビングであり、ダイニングということになります。特に、お母さんが夕食の支度をしているキッチンとの距離が近いダイニングが最も大切な場と言えます。可能ならば、大き目なダイニングテーブル、座り心地のいい椅子を備え、自然と子どもがやってきて、勉強をしたくなるような空間にしたいですね。
そして、キッチンとの関係も大切だそうです。「お母さんが気持ちよく家事をしている環境」を創ることで、家の中でお母さんが光り輝いていることが子どもにとっては一番うれしいのだそうです。お母さんが生き生きと家事を楽しくこなしていることが、子どもが自然と寄ってきて、近くで気持ちよく勉強することにつながります。
そして、キッチンとダイニング間で、コミュニケーションがとりやすい位置関係というのも大切ですね。
子どもの考える力は、こうした家の中のパブリックスペースで培われるのだそうです。
つまり、「頭の良い子が育つ家」とは、家族のコミュニケーションが上手に取れる「住まい」のことだということです。それは、子どもが親兄弟とコミュニケーションを自然に取れる家、逆に言えば、子どもが一人ぼっちで孤立しない家ということです。ですから、立派な子供部屋を与えて、引きこもり状態を作ってしまうことは、むしろ逆効果なのだそうです。
フルリノベをするのであれば、子どもが小さいうちは、ドアを設けないという選択肢もありだと思います。
これも、一般的な住宅では、冬や夏は冷暖房が無駄だから「扉を閉めなさい!」となりがちですが、家中の室温がほぼ同じ高気密・高断熱住宅ならば、気になりませんよね。
一般的なマンションの間取りでは、各個室が細かく区切られ、壁とドアで仕切られているため、子ども部屋を与えるとどうしてもそこが完全に個室化してしまいます。
繰り返しになりますが、「頭の良い子が育つ家」の条件は、子どもに親の気配を察せられるような空間作りが大切です。そこで、中古のマンションを購入してフルリノベを行うのであれば、先ほど触れたように、子ども部屋にまずはドアを設けず、セミパブリックスペース的にしておくというのも一つの考え方です。いずれ子どもが成長してきたら、扉を設置して、完全に個室にする必要があるかもしれませんが、少なくとも子どもが小学生くらいまでは、必ずしも子供部屋を与える必要もないようですから、当面はセミパブリックスペースとしての子ども部屋にしておくという考え方は有効かもしれません。
都市部では、狭小地に3階建ての家が増えていますが、そういう家でも、どうしても子供部屋が孤立した空間になりがちです。狭小地の場合、空間がとても貴重ではありますが、その一部を思い切って吹き抜けにするというのが効果的なようです。
小さくても吹き抜け空間をとることで、縦方向の空間的なつながりができます。そのことで、心理的な空間の豊かさや家族間の立体的なコミュニケーションが取れ、家族の気配を感じながら過ごすことができるそうです。この点は、とても大きなメリットだと思います。
また、吹き抜け空間は、通常の性能の住宅だと、冷暖房の光熱費が余計にかかり不経済だと言われがちですが、高気密・高断熱住宅の場合はそうではありません。むしろ、家中の温度を均質に保つためにもとても有効な空間なのです。
十分な性能の高気密・高断熱住宅は、6畳用のエアコン1台で家中を冷暖房することが可能です。ただそうは言っても、暖気は上に上がり、冷気は下に降りていきます。そのため、実際には、最上階と1階に1台ずつエアコンを設置して、夏は最上階のエアコンだけを動かして吹き抜け空間から冷気を下に落とし、冬は1階のエアコンだけを動かして暖気を吹き抜け空間から上に上げているケースも多いようです。
ここまで説明してきた通り、「頭の良い子が育つ家」の条件は、家族がコミュニケーションをとりやすい、開かれた家ということです。でも、近年の家は、どうしても、個人のプライバシー重視の住宅になってしまっています。特に都市部の狭小戸建て分譲住宅や、分譲マンションはその傾向が強いですよね。その点、中古住宅を購入して、間取りを含めてフルリノベを行う。また併せて断熱リノベも行うことで、セミオープンな空間がつながっている家族の気配を感じながら生活できる住まいを実現することができるのです。