TRUE STORY
実話から生まれたホームテックのポリシー
「自宅の階段をもっと快適にしたいんです」
私がまだ入社1年目だった夏のこと。ある一組のお客さまを担当することになった。お客さまは60代のご夫婦。現在は鉄骨造の3階建てにおふたりで住まれているとのこと。息子さんはすでに独立し、愛犬とともに悠々自適な生活を送られていた。
「もう20年以上も住んでいるので、階段が古くなってしまって……」
その階段は鉄骨造であった。足場にはカーペットに使われるピンク色の布が貼られており、エレガントな雰囲気を醸し出している。ただそれも、20年という歳月を経て、色味や雰囲気がイメージと合わなくなっていた。
「汚れも結構、目立ってきておりまして」
「なにせ、自宅で中型犬を飼っているものですから……」
そのように話すご夫婦からは、愛犬を大切にしている様子が伝わってきた。ただ、犬の爪でカーペットや階段が傷つき、汚れてしまっているそう。そこで、よりオシャレで頑丈な階段にする必要がある。
「このままだとメンテナンスも大変ですよね」
「そうなんです。だから、思い切って新しくしようと思って」
専門業者に依頼すれば、カーペットを剥がして新しいものを貼ることはできる。ただそれだと、いずれまた、同じように傷や汚れが目立ってしまうだろう。そう考えた私は、他の選択肢もあることをお伝えした。
「思い切って、階段の材質を変えてみてはいかがでしょうか?」
「材質を……」
「たとえば、木材などで新しい階段を作ることもできます」
ただ、階段を作り直すとなると、費用もかかってしまう。当初の予算から考えるとかなりのオーバーだ。そこで別のアイデアとして、今のカーペット素材ではなく、クッションフロアを貼ることを提案した。
クッションフロアは、水回りや洗面台などにも使用されている内装材。これなら金額を抑えられるだけでなく、利便性も高くなる。従来のカーペット材とは異なり、メンテナンスもずっと楽になる。施工も難しくない。
「なるほど、クッションフロアという方法があるんですね!」
「それはいいかもしれませんね!」
ご主人さまも奥さまも、私の提案を喜んでくれた。問題は、どのような柄にするかということ。ただその選択に関しては、明確な判断材料があった。それは、月に数回ほど遊びにくるというふたりのお孫さん。ぜひお孫さんたちの希望を反映したいとのことだった。
「やっぱり、明るくてカラフルなものがいいかなぁ」
「それなら、ササラや段鼻も塗装してみてはいかがでしょうか?」
ササラとは、階段を支える梁。同じく段鼻は、滑り止めなどがほどこされている段板の先端部分のこと。それらのカラーも考慮することで、住まいの印象は大きく変わる。何より、お孫さんの希望も反映できる。
「そうしましょう!」
「それなら、みんなで手分けして色や柄を決めるようにしますね」
相談の結果、クッションフロアは奥さまが、ササラと段鼻はそれぞれお孫さんが決めることに。そして、クッションフロアは白黒のドッド柄、ササラは黄緑色、段鼻には赤の滑り止めをつけることになった。階段は見違えるように明るくなった。
最初は不安だった私も、完成した現物を見て、素晴らしい出来栄えに驚いた。もちろん腕のいい職人さんのおかげであるが、色の選択も絶妙。原色を基調とした色彩がアートのように輝いて、どこにもない、世界にひとつだけの階段になった。
「本当に、希望通りのリフォームをしていただいてありがとうございます」
お客さまが心から喜んでくれたとき、私はひとつの達成感に包まれた。思えば、設計から施工まですべて担当した、初めての経験だった。あの日々と、お客さまの喜ぶ姿、そして眩しいほどの階段が、いまでも私の胸で熱をもっている。