TRUE STORY
実話から生まれたホームテックのポリシー
「台所をオープンキッチンにしたいんです」
そのようなご相談をいただいたのは、いまから2年ほど前の初夏のこと。お客さまは50代ぐらいのご夫婦。それと20代の娘様を含めて、現在は3人でマンションに住まわれているとのことだった。
「とにかく、オシャレでステキな住まいにしたくて……」
1LDKのお住まいは、築20年ほどが経過していた。そこで、よりオシャレな住まいにリフォームするべく、オープンキッチンにしたいという思いだった。ただ、お打ち合わせを重ねていく中で、お客さまの希望は少しずつふくらんでいった。
「何かお好きなものはございますか?」
「実は、昔からテディベアが大好きで、家にたくさんあるんです」
ヒアリングをしていると、奥さまがテディベアのコレクションをされていることがわかった。その数、およそ50〜60。すべてドイツの最高級ブランド「シュタイフ」のものである。キラキラした目でテディベアについて話す奥さまから、本当に好きであることが伝わってきた。何か工夫はできないだろうか。
オープンキッチンから始まった打ち合わせは、やがて住環境全体へと広がっていった。それこそ、テディベア用の陳列棚から家具まで、現在の住まいをよりオシャレに、よりステキにするためのアイデアが次から次へと飛び出してくる。
「キッチンの向きを変えたほうがいいかもね」
「あ、家具の配置も工夫したいなぁ」
お客さまのイメージはどんどん具体的なものになっていった。とくに奥さまは感覚を大切にする方。感覚を大切にしつつ、オシャレさや快適さの中身を固めていった。
「いまある家具も活かしてほしいな」
「内装も変えたほうがいいかも!」
とくにお部屋の印象を左右しやすい壁紙やドアに関しては、タイルを貼ってみたり、デコレーションしてみたりなど、さまざまな工夫を提案した。その度に、お客さまがとても喜んでいるのが伝わってきた。
テディベアの陳列棚に関しては、予算とのバランスを考慮して最後まで悩まれていたのだが、最終的には実現することになった。天井まで届きそうな、とてもオシャレなガラスのケース。それを、お部屋の中央に。
決断のポイントは、費用よりも満足できるかどうか、ということだった。
「せっかくのリフォームですし、後悔はしたくないですから」
工事が終わり、実際に引き渡しまで終えたときには、すでに年末だった。それでも、完成した陳列棚を見ていただいたとき、奥さまと娘さまはとても喜んでいた。まるで、童心に戻ったようにはしゃいでいた。私はその姿を見て、本当に良かったと思い、嬉しくなった。
「おかげさまで、好きなものに囲まれて、快適に過ごせるお家になりました!」
「新しいキッチンで、お料理も楽しくなったわ!」
もともとお家で過ごされる時間が多かったご家族。それがリフォームを経て、より望ましいかたちになったとのお声をいただいたとき、私はホッと胸をなでおろした。そして、お客さまに貢献できたのだと心から思えた。
リフォームは、打ち合わせの段階から、完全なかたちで最終形を提示することはできない。とくに、具体的なイメージが固まる前ならなおさら。それでも、見えないものを見えるようにする努力はできる。私はお客さまの笑顔を見てそう思った。
それぞれのお客さまに、それぞれの〝大切なモノ〟がある。私はそれを大事にしたい。それがキッチンでも、テディベアでも、同じである。お部屋で過ごす時間の中で、よりそれらを体感できるようにするのが私たちの仕事なのだ。
お客さまからいただいた感謝の言葉、それが今でも、私を勇気づけてくれている。