TRUE STORY
実話から生まれたホームテックのポリシー
あれはたしか、入社して2年目。だいぶ仕事に慣れてきたものの、玄人と呼ぶにはまだまだ長い道のりを残しているわたしは、洋室一部屋のクロスの張り替えを依頼された。
頼まれたことをただ淡々と行うというのはわたしのスタンスではなかったので、いつものように、「なぜ張り替えるのですか?」と訊ねた。
すると、クロスを張り替えるその洋室は、ほんの2ヵ月前までワンチャンのお部屋だったことがわかった。飼っていたコーギーが他界したため、その部屋を違う目的のもと使っていこうとしているというのが、クロス張替えの理由だった。ただ、その時点ではまだ、その部屋をどのように使っていくかは、そのお客様には見えていなかった。
さらに詳しくお話を伺っていると、お客様に最近、お孫さんができたということがわかった。
「そうねぇ。孫が生まれたから、家に来たときに、その孫が遊ぶプレイルームのような使い方ができるといいわねぇ」
そんな話が、会話の中で生まれてきたのだ。
ところが、いざ仕様を決めるためにご希望の色味を伺ったところ、「特に希望はないから、なんでもいいわ」というお返事。それを聞いて僕は思った。「だったら、僕がやろう!」と。
でも、入社2年目の僕にはまだ、すぐに具体的な提案を出すことはできなかった。そこで、会社に戻り、すべてのカタログのページを片っ端から全部めくり、部屋の想像をしていった。
そうしていくと、調べながらアイディアがもくもくと膨らんできた。結果として出てきた提案は、「床は、お孫さんが転んでも汚してもいいようにクッションフロアで。壁紙は、空。天井は、部屋が暗くなると星がまたたく」というもの。
プレイルームとして楽しく安全に使えることに加え、愛犬をいつまでも忘れないように……という想いを込めて、壁紙の空から天井の天国への道のりを部屋に取り入れたのだ。
営業職というのは、いかに最初のお話の際に、お客様が求めるものを的確にキャッチアップするかがカギになってくる職種だと思っている。
まだ2年目の自分にとって、そのお客様は、そういったカギを手にできた一件目だったように思う。施工自体はシンプルで簡単なものなのだけれど。
正解が見えない中で投げられるボールは、ともすると人任せだと見られがちだ。しかし、僕にとっては、そのボールは自分で考えていいよ、という合図のように感じるし、そのボールが投げられたときこそ、気持ちが向上する。
洋室一部屋のクロスの張替えを引き受けたことを機に、自分の中で明確に仕事の楽しさを理解できたような気がする。また、ありがたいことに、それを境に成長ができたような気もする。
今思うと、この件の前は、仕事の面白さをわかっていなかったかもしれない。それまでは、言わば「モノ売り」だったのではないかと。モノを売って、施工をして、次にまたモノを売って……という単純な繰り返し作業をしながら、内心では「仕事って、こういうことではないんだよな」とモヤモヤしていたのだ。でも、そのタイミングでこの体験に出会えて、モノではなく、コトを考えるようになれた。
それから月日は経ち、僕も6年目の中堅どころになった。
今は、木造の一戸建てで、全改装といった仕事を多く手掛けているが、そんな今でも、あの、たった一部屋のクロス張替えの体験がくれたことが活きている。
これからは、「穴があけられない」「キッチンが動かせない」といった制限がかかったところで、ほかの人ができない提案をいかに考えられるか……ということにチャレンジしていきたい。